『国家情報戦略』佐藤 優 コウ・ヨンチョル
『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』以来、自身の経験から国際政治の裏側を生々しく抉り出す作品で知られる佐藤優氏が、韓国で軍事政権から文民政権へ移る転換期に国策逮捕され禁固刑、軍を除隊させられたコウ・ヨンチョルさんと対談した内容を纏めた本です。
佐藤氏は外務省の主席分析官、コウ氏は韓国軍少佐として国のために尽くしながら、共に最後は国の都合で切られた共通の経験を持つだけあり、話はスムーズに進みます。話題が日韓の関係や互いの歴史に触れると遠慮し合うような場面もありますが。それ以外ではインテリジェンス(国家情報戦略)の第一線で働いた人間同士、胸襟を開いた意見交換が面白いです。
アメリカは金正日の息の音まで関知できる。
偵察衛星は地上700キロの高さから10センチ大の物体まで識別できる。
アメリカのNSAはエシュロンと呼ばれる通信傍受システムを使い、地球上全ての通信を追跡できる。日本もこれに加盟しており情報提供を受けられる。
偵察衛星や偵察機を自前で運用すれば莫大な費用がかかるが、韓国はアメリカと軍事同盟関係にあるため、これらを無償提供してもらえる。同じように日本もアメリカから情報提供を受ける権利はあるが、これを有効活用できる機関が存在しない。
この本で意外に高評価だった国が北朝鮮、予想通り低評価だったのは日本です。これはコウ氏の発言ですが「北朝鮮という国は外から見てると貧乏で田舎臭く映るが、政権の中枢に関わる幹部は外国への留学経験を有しており、実は非情に優れた国際感覚を備えている。北朝鮮は中国とロシアに足をかけバランス取りながら、日本とアメリカにも近付こうとしている。表向きは瀬戸際外交を続けているようで、彼らの戦略は欧米の先進国の水準を凌駕するハイレベルなものだ。スパイ工作活動は冷戦時代に外国の政府を転覆させたCIAレベルに達している」
コウ氏は盧武鉉前大統領誕生の背景にも北の工作があったと言います。選挙前は話題にもならなかった盧武鉉が蓋を開けたら圧勝したのは、裏で北の煽動工作があったからだ、と。
日本に対しては両氏共に「スパイ天国」で一致してます。
もっとも日本の場合は自衛官でも自分たちが国の防衛に関わる重要な情報を扱っている意識が希薄なのか、スパイの手を煩わせることもなく頻繁に流出させてます。これが続いて「日本に情報を渡すと、どこへ流れていくか分からない」と風評が立ったら同盟国のアメリカでも、日本には機密レベルの低い情報しか回してくれなくなる可能性もあります。戦略拠点として日本が機能しているうちはギリギリまでないと思いますが。
北朝鮮と日本の関係で、ヘーと思ったのが、北朝鮮の情報機関では工作員を教育するのに、日本の陸軍中野学校の教科書を使っているという点です。かといって戦前の日本が「あちらの国民を拉致して工作員に仕立て上げろ」と教えたわけではありません。そこは北朝鮮オリジナルです。
中野学校の教えは「謀略は誠なり」です。
真心から発する誠を貫くことが出来なければ大事を成すことは出来ないということで、「現地の人々に受け入れられない謀略工作は、絶対に成功しない」とされていました。
本文118P 佐藤優氏の発言より
工作相手国のために誠心誠意動くことで最終的には日本の国益にもなる「連立方程式」を書くのが中野学校の教えでした。北朝鮮は心・技・体の技と体だけ学んで心は横へうっちゃった形ですね。
もし日本が軍備の増強をするでもなく、核を保有するでもなく戦争を回避したいと考えるなら、一番良いのはNSAやCIA、MI6、モサドといったプロに負けない情報機関を作ることだと考えます。
こう言うと情報機関なんて言っても要はスパイでしょ。スパイを養成するなんて軍国的だと反対されるかも知れませんが、武力を使わず戦禍から国を守るにはこれしかありません。なぜ諸国が専門機関を置き絶えず情報集めに奔走しているか、情報が高値で売買されてるのか。現代戦では情報が大きな力を持つからです。情報を集めるのは即ち相手の頭を抑える行為です。
銃に頼らず国を守りたいなら相手より圧倒的に優位な立場に立つしかありません。
日本は絶対に戦争しないから、戦争のことなんて考えなくても良いんだというのはナンセンス。日本が好むと好まざるとに関わらず“戦争”は存在します。この世界で生きてく限り無視できませんし、我々も巻き込まれない保証は全くありません。
備えあれば憂いなし、ですよ。
佐藤氏の本としては薄く入り口が広いので入門編にも最適かも知れません。
<目次>
1章
フジテレビ秘密情報漏洩事件
2章
韓国と日本のインテリジェンス
3章
友好国とのインテリジェンス協力
4章
日本人の情報DNA―陸軍中野学校の驚異
5章
北朝鮮はどうなる
終章
核の帝国主義
あとがきに代えて―韓国の実戦ノウハウを日本に
講談社
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